外国語で発想するための日本語レッスン

fumi · January 18, 2009

この本は三森ゆりか氏の”外国語を身につけるための日本語レッスン”の続編です.この人は常に,日本の国語教育と欧米(特にヨーロッパ)の国語教育の差が,日本人が外国語学習する上で問題であるという主張をしています.この本ではその中でも”テクストの分析と解釈・批判 (critical reading)”について取り上げています.”テクストの分析と解釈・批判”とは,テクストに書かれている事実を様々な角度から分析し,それを根拠として客観的・論理的に解釈し,批判的な考察を行うための技術です.

欧米ではこの技術を習得するためのシステムが昔から存在します.最終的に”テクストの分析と解釈・批判”を誰もが行えるようになるために,子供は幼稚園の頃から国語教育として段階的に教わります.さらには,他の言語を学習する際にも同じ段階を踏みます.”テクストの分析と解釈・批判”について学ぶことが,言語学習での約束事になっているのです.それに対し,日本ではこのような技術は教えられていません.良い文学作品をとにかくたくさん読むことが良いという教え方です.また,日本での読解は,感覚的・主観的にテクストを鑑賞することです.例えば登場人物や作者の心情を問うことが多々あります.このような教育の違いが,日本人と欧米人の発想の違いに繋がっており,両者が議論をするときに議論がかみ合わなくなる原因の一つとなっているという主張です.

私もW3Cで働いていたときに,様々な面で外国人と日本人の差異を感じました.例えば外国人は,議論をする上で,常に議事録やメールなどに事実を求めます.過去このような議論があって云々という話をするときには,必ずそれが何時どこの議事録に書かれているのかを問われます.逆に言うと,議事録に書かれていなかったことは議論していないと同義です.それに対し,日本人は議事録に対する意識が薄いように感じます.W3Cで働く前はとある省庁のプロジェクトを2年ほど行っていましたが,過去の議事録がそのような形で活かされたことは一度もありません.なんとなく,議論が進んでいくことが多かったです.

この本の良いところは,ではどうすれば良いかという明確な解を書いていることです.段階的に”テクストの分析と解釈・批判”を学ぶための具体的な方法を提案しています.個人的に興味深かったのは”絵の分析”の部分です.私は絵の作者や何々派というのを覚えるのが苦手でしたし,絵を描くのも苦手でしたので,美術が嫌いでした.しかし,ここで述べられている方法は,絵の背景知識は一切必要ありません.絵に描かれている事実のみから内容を読み取っていくという方法です.例えば標識の色や線の使い方だけから何が読み取れるかなど.私は今まで絵やイラスト,デザインに対して苦手意識があったのですが,このような接し方なら興味が持てそうです.

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