よくある退職エントリ
今月末で約10年間勤めた(共)情報・システム研究機構 国立情報学研究所 (以下、NII)を退職することになりました。個人的にはやっと2019年13月が終わったという気分です。私がNIIで最後に所属したオープンサイエンス基盤研究センターでは毎月おやつセッションというのが行われているのですが、先月のおやつセッションクリスマススペシャルで、”NII時代(30代)総集編”というプチ最終講義的な何かをしました。過去の発表スライド (SlideShare, SpeakerDeck, FigShare )から内容抜粋して作ってみたらこの10年本当にいろんなことをしたなと感慨深かったので、それをベースに退職ブログを書くことにしました。
こういうことしようとすると脱線するのが世の常で、手始めにいい加減WordPressから脱却したいと常々思っていたので、以前から準備はしていたJekyll+GitHub Pagesに昨日移行しました。移行してから最初に書くのが退職エントリという。
元々2010年にNIIに来るキッカケとなったのは、twitterで武田先生と大向先生が新規プロジェクトの人募集をしていたことでした。最初は研究室の後輩でも紹介しようとか考えていたのですが、内容がこれまで関わってきたことの延長で、まさに日本でも誰かやらないかなと思っていた話だったので、思い切ってまだ4ヶ月しか勤めていない会社を辞めて、2010年5月16日から参加することになりました。
翌月にプロジェクトの概要をInteropで話す機会があったのですが、当時のスライドを見直すと10年経っても同じこと言っているなと妙に感心しました。学術情報流通の蓄積・公開・共有とかRCOS三基盤そのままですし、政府の生データ、研究データ、Linked Data、異分野のデータ連携、CiNii、Europeanaなどなど、この10年で関係したものが大体挙げられていました。まるで成長していない(安西先生)とも言えます。
私の肩書はずっと特任研究員だったので外からは研究者として見られるのですが、論文書くよりコード書くほうが好きなタイプなので、そのギャップに悩むことも多かったです。研究のこともわかるソフトウェアエンジニアというのが一番しっくりくる扱いでした。海外でも同様の立場の方々がたくさんいるようで、最近はResearch Software Engineer (RSE) と呼ばれているようです。日本でもRSEのコミュニティができると良いのになぁとは常々思っていました。
以下、10年間やってきたことを、学術情報と行政データとカメラマン(!)に分けて書いてみました。
学術情報編
最初に主に関わったのが、募集していた新規プロジェクトLODACです。学術情報をLinked Dataでつないでいこうという趣旨だったのですが、ターゲットとなったのは主に博物館や生物多様性に関する情報でした。博物館・美術館の方や生物種の研究者などと話をしながら、データ作成・組織化などを進めました。同時に、RDF.rbについてRubyKaigiでLTするなど、ベースとした技術やソフトウェアの話もいろんなところでしました。
NII来るまでは日本の図書館や博物館のコミュニティについてさっぱり知りませんでしたが、Code4Lib JAPANやsaveMLAK、JPCOARなど、気がついたら色々関わるようになっていました。図書館総合展が毎年の1大イベントとして自分の中で位置づけられてしまうようになるとは想像もしていなかったというか、そもそも存在を知りませんでした。本家code4libにも何年か参加しました。
私自身はLinkedData勉強会というのを主催して、様々な分野の方々とつながることができました。特に生命科学の人達と知り合いになり、後にLODACでも生物多様性情報に関わるようになったので色々一緒にしました。自分の中のハッカソンのイメージは今でもBiohackathonです。
学術情報を他とつなぐための汎用データとして、場所についてのデータを整備したり、Wikipediaをデータ化したDBpedia Japaneseの公開をしたりしました。DBpedia Japaneseは今でも落ちると即問い合わせが来るくらいには使われているようで、研究分野の発展に寄与することができたのかなと感じています。DBpedia Japaneseがどう使われているのかを知るために日本語Linked Dataクラウド図を作ったり、ユースケースの収集もしました。これらはオープンサイエンスにおける研究データの利活用把握問題やデータサイテーションへの意識にもつながっています。
DBpedia の活動を通してWikipediaの中の人達と交流するようになり、図書館の活動も混ぜ合わさって Wikipedia Townに発展しました。私自身はWikipedianではなく、どちらかというとCommonsやWikidataに興味があるので、Wikipedia Townをするときにはその方面で関わっています。特にWikidataは未来だと思っているので、現在のコミュニティ活動的なものはWikidata中心にしようとしています。
また、毎年CiNiiやKAKENのデータをいじって研究者つながりマップをオープンハウス用に作成したり、生物種名データをCiNiiへ応用したりということもネタとして行っていました。それらはRCOSで主に関わることになった検索基盤に続いていく内容でした。RCOSではこれまで研究として行っていたことをNIIの事業にどう応用していくかという側面が強く、CiNiiやIRDBといった実運用されているシステムにも関わることができました。
書籍は、4冊関わりました。セマンティックWebプログラミングは共監訳、Linked Data: Webをグローバルなデータ空間にする仕組みは共訳、オープンデータ時代の標準Web API SPARQLは共著、人工知能学大事典は担当部分執筆と、全部関わり方が異なりますが良い経験でした。今見ても監訳が複数いる本というのは本当に謎ですが、当時それをしないとあの本は世にでなかったかもしれません。
行政データ編
学術情報の話をしている間に世の中でもオープンデータの流れがでてきて、特に行政データのオープン化が進もうとしていました。LODチャレンジで鯖江市がデータを投稿してくださったところから始まって、行政データに触れることになりました。
data.gov.ukやdata.govなどの海外動向を知っていたので、日本でもデータカタログを作る流れになるだろうなと思い、その時ベンダーロックされるのは嫌だったのでオープンソースソフトウェアであるCKANの日本語訳をはじめました。横浜のオープンデータディでテストした後、CKAN日本語という自治体のオープンデータを登録するサイトを作りました。また、経産省のOpen DATA METIに協力しました。これらは data.go.jp にCKANが採用されたことと、いくつかのベンダーが自治体向けにCKANベースのソリューションを提供するようになったので、力を入れて良かったです。後日談としてdatago.jp をやったのも今となっては良い思い出です。
行政データの提供や利活用については、5 star open dataの翻訳を行ったり、さばえぶらりやったりしました。IMIについては、最初は適当な外部委員だったのですが、openparkをIMIベースで作ったり色々意見言ったりしていたらがっつりと巻き込まれて最後の方は技術側のまとめ役をやっていました。技術の話を代表して原稿書いたら色々なところで評価して頂いて、最終的には電気科学技術奨励会 第67回電気科学技術奨励賞というのを昨年11月に受賞しました。この贈呈式が卒業式のような調子のイベントで、既に転職することが決まっていたので、人生の節目感がありました。
派生として行政の保有するコードや分類体系に興味があって、行政区分や企業コード等のモデル化を試みたりしていました。行政区分については統計LODに反映されています。また、行政データと学術情報をつなぐものとしてレッドリストの話もしたりしていました。
カメラマン編
今や写真やカメラが趣味と大手を振って言えるのですが、2013年まではカメラに全然興味がなく、携帯のカメラで十分だと思っていました。写真をはじめてみようとおもったきっかけは、2014に連続セミナーやるので記録が必要だということと、子供が生まれるためでした。結果、写真を撮ることにもカメラという機械自体にも大ハマリして、飽きずに今にいたります。
被写体はなんですかと良く聞かれるのですが、撮っている枚数ベースでは、目的通り家族やイベントが圧倒的に多いです。イベントについては、LODチャレンジやCode4Lib JAPANカンファレンス、Code for Japanサミット、ISWCやJOSS等、コミュニティイベントから国際学会まで幅広くカメラマンをしました。Wikipedia TownのところでCommonsに興味があると書いたのも、まさにイベントで撮影するのが楽しいからです。どうも同好の士がそれなりにいたらしく、カンファレンスカメラマンカンファレンスというタイトル出落ち感あるイベントが計3回も開かれて、私も一回目に話をしました。
また、プレゼン資料で使える素材が増えるという効果もありました。それまではストックフォトで買ったりとかしていたのですが、面白い写真撮っておくと後で活用できるので、世界の見方が少し変わりました。
カメラやレンズ自体も、とっかえひっかえ実に様々な種類のものを経験しました。デジカメだけでは飽き足らずフィルムカメラにも手を出したのですが、すっかり機械式フィルムカメラの虜です。とはいえコレクターというわけではなく、実用したいものだけを残すように努力しているので、今は135フィルム用を2台、120フィルム用を2台持っています。まだ使ってみたいカメラ候補はありますが、レンズも含め大分落ち着いてはいます。eBayやAli Express便利です。
時間が全然なく心残りなのが、4x5のカメラをkickstarterで手に入れておきながら、撮影を全然できていないことです。4x5を本格的にやるかは全く未知ですが、とりあえず撮影してみることが今年の目標の一つです。
まとめと今後
ここまで書いたこと以外にもニコニコ学会βや国際学会のシステム作ったりとか、ガジェット好きにはクラウドファンディング最高とか色々ネタはあるのですが日付変わりそうなので一旦止めます。
2月からは、とある民間企業で働く予定です。これまでとは全く違う生活になる予定なのでどうなるのか全く不明ですが、楽しみにしています。